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韓国国立環境研究院より

海外からのたより

竹下 俊二

 私は国際協力事業団 (JICA) の派遣として,去る5月に渡韓し,現在ソウル市にある韓国国立環境研究院に勤務しています。JICAは海外99カ国(97年7月)を対象に分野ごとに協力事業を行っていますが,私の任務は環境保全分野のうち韓国の水質改善システム開発プロジェクトの指導・助言や共同研究で,任期は本プロジェクト(5年間)が終了する来年8月末となっています。韓国の水環境の現状は,日本が水域の富栄養化などで水質悪化を招いた過程が再現されているように思われます。実際,上水源であるダム湖流域の河川の富栄養化が予想以上に進行しており,今夏にはダム湖で有毒アオコの発生も観測されています。本プロジェクト終了後の新たな研究課題と思われます。

 韓国国立環境研究院 (NIER) は,日本の国立公害研究所 (NIES) が発足して,4年後の1978年7月に設立され,組織の規模は NIES と比べて研究部数,職員数ともほぼ80パーセントです。使命・目的も同じで,研究内容も似通っていますが,両者の大きな違いは,NIERの母体の環境部(部は日本の省に相当)があらゆる環境問題を一元化していることです。このため,環境関連法律の制定,改正などが実に迅速に行われています。研究者は欧米や日本の先端的研究や科学技術を参考に,この国の実情に即した科学的データ・知見を得るのに懸命です。

 <住の話題>韓国北部の冬の寒さは,大陸性気候の影響で大変厳しく,ソウル市の1,2月の最低気温はしばしば−10℃を下回るそうです(数カ月後は否応なしに体験するでしょう)。古来,一般家庭でも廃熱が有効利用され,室内暖房には生活の智恵が凝縮されているようです。典型的な省エネルギー型,しかも熱流方向に適った合理的な体の温め方であることがオンドルを生み出したゆえんと思われます。オンドルとは床下暖房装置のことですが,最近日本でも室内汚染がなく,健康に良い暖房システムとして住宅設備の基本仕様にみられるようになってきました。オンドルの歴史は古く,高句麗時代(7世紀)にさかのぼるという記録はともかく,その原型は14世紀に建立された王宮(景福宮)を復元した現王宮にみることができます。初期の構造は,燃料を入れる石や煉瓦で造ったかまどとそれに連結された煙道からなっており,高温の煙は各部屋の床下に縦横に導かれています。室内を暖めた煙は,煙突から対流作用によって動力なしで排出されます。燃料は,もともと雑木,薪,練炭でしたが,大気汚染の一因ということもあって,最近の集合住宅はもちろんのこと,一般住宅でも都市ガスや灯油の使用が主流のようです。最近の構造は,ボイラーで作った温水を床下に張り巡らされた蛇管に通して室内を暖める方式に転換されています。これは日本の大部分の方式と同じですが,一方で,日本で徐々に増えつつある太陽光を利用した床暖房方式はいまだほとんどみられません。

 <食の話題>当地は,もてなしの伝統として,“食卓の品々は有り余るほど良し”とした食習慣があります。この飲食廃棄物に加えて,経済発展に伴って増加する産業廃棄物対策は各国とも頭の痛い問題で,いかに減らすかが当面の課題のようです。そこで,NIERの職員食堂では,必要量だけを食器にとり,残飯量ゼロを目指すなど環境への負荷削減に取り組んでいます。帰国後,是非参考にしたいことの一つと考えています。

筆者の写真
写真 ソウル市植物園

(たけした しゅんじ,水土壌圏環境部主任研究官)