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異なる環境負荷や環境問題をどう比べるか

研究ノート

寺園 淳

 CO2 1トンとNOx 1キログラムはどちらが重大な環境負荷か,あるいは地球温暖化と有害化学物質汚染はどちらが重大な環境問題か,という問いに対して答えることは非常に難しい。また,その問いはナンセンスであるという見方も当然ある。しかし,少なくとも後者の問いについては,例えば環境庁や研究所などで限られた予算や人員の配分を決定する際に,どこかで線引きが行われているのも事実である。

 この問いは,ライフサイクル・アセスメント(LCA)の分野でも話題になっている。LCA では,インベントリー分析という作業によって数10種類もの環境負荷の結果が羅列された場合(現在はとてもそこまでデータが得られないが),それらをどのように評価したらいいのかという判断に迫られる。とりわけ,CO2は削減できるがダイオキシンは増加するというようなトレードオフが生じる場合などに,ある種の指針を提供することが必要な場合がある。これに対して,一つの数字(指標)で示そうとするややムシのいい話まで含めて,なるべく少数の指標で表現しようとするのがライフサイクル・インパクトアセスメント(LCIA)手法である。応用上の観点からは,環境ラベル交付,環境政策の優先順位や予算の決定など様々な意思決定が行われる場面で,根拠となるような,わかりやすくて合理的な判断基準を提供することも期待される。

 そこで,既存の複数の LCIA 手法が,異なる環境問題をどのように比べているかを調べてみた。つまり,同一の環境負荷に対して異なる LCIA 手法で計算を行い,どのような評価結果の違いが得られるかを知ろうとしたものである。計算の対象は日本全体の年間環境負荷を可能な限り収集したものであり,比較した手法はスウェーデンの EPS(Environmental Priority Strategies in product design),スイスのエコスケアシティ法,オランダのエコインディケータ95,および国内からは永田によるパネル法の4種類である。比較した結果を図に示す。縦軸には各手法による指標の総計値を100%とした場合の,環境問題ごとの寄与を示している。これによると,重要とされた環境問題の傾向は手法間で全く異なり,EPS では資源枯渇,エコスケアシティ法では大気汚染,エコインディケータ95ではオゾン層破壊の割合が大きくなっている。現在,LCA 実施者は任意の LCIA 手法を一つだけ使用することが多いため,使い方次第では実施者の意図に応じた評価が可能になっているともいえる。

 このように違いが生じた原因は,いくつか挙げられる。まず,手法間で環境問題の選択方法が違っており,例えば EPS では廃棄物関係の環境問題がなく,エコインディケータ95では NOx による酸性化は考慮されるが,健康リスクは評価されていないという問題もある。さらに,例えば,CO2による温暖化を基準とした場合の CFC-11 によるオゾン層破壊に対する重みを調べると,EPS とエコインディケータ95との間で5桁も異なるなど,個々の係数設定に至る前提条件の相違も大きな原因である。単一または少数の指標を求めること自体の是非も議論されるなかで,各 LCIA 手法はどのような科学的知見を用いて計算したかを,より明確に示す必要がある。

 また,科学的知見のみでは評価できる環境負荷および環境問題が限られるため,何らかの価値観が必要になる場合がある。これについては,州政府が主に予算配分を行う際に環境問題の優先順位付けを行うために,米国EPA が開発した CRA(Comparative Risk Assessment)がある。CRA では,環境問題のリストを作成し,それらに対して専門家による科学的・定量的データのみでなく非定量的情報や市民の価値観も含めた上で,ランク付けが行われる。

 筆者らは国内での CRA 試行会議を本年1月に実施し,当研究所からも含めて国内の環境問題専門家23名が参加した。そこでは,パネルによって日本にとっての環境問題のリストが表のように作成された。既存の LCIA 手法では環境負荷データの存在を前提にした,いわゆるボトムアップ的な統合・指標化が行われているが,これではいくつかの重要な環境問題を見落とす危険もある。表に挙げた15種類の環境問題は,日本にとっての環境問題を広く集めて整理したものである。リスト作成の後,エンドポイント(影響の行き着く先)としての健康,生態系,QOL(Quality of Life)の3つのリスクに対して,それぞれの環境問題がいかなる重みを持つかを議論し,一次的なランク付けの結果を得ている。エンドポイントとしてこの3つのリスクが適切であるかなどの議論はあるが,この種の手法を LCIA に適用できる可能性はあると考えられる。

図 既存LCIA手法による日本の年間環境負荷評価の比較
表 CRA試行会議で選択された15種類の環境問題

(てらぞの あつし,社会環境システム部資源管理研究室)

執筆者プロフィール:

東京都生まれ,京都大学大学院工学研究科博士課程衛生工学専攻修了
<趣味>「あぐり」鑑賞(本年10月4日まで)
<特技>鉄棒の連続前まわり(最高13回)