ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

国際総合環境政策システム情報科学

ずいそう

天野 耕二

 国立環境研究所から立命館大学に来て3年余りになる。はじめの頃に感じていた「研究所と大学」,「公的機関と民間企業」そして「関東と関西」という3重ギャップもようやく克服しつつあるところ。ワールドカップがあってもオリンピックがあっても一面トップは阪神タイガースというスポーツ新聞にも慣れた。ただひとつ,昼休みの野球とテニスができなくなって腰回りとストレスが増え気味なのには困っている。

 大学で3シーズンも過ごすと授業の準備も軌道に乗って少しは落ち着いて研究もできるかなと期待していたが,なかなか教育と研究の両立に楽な道はないようだ。18歳人口激減期を迎えながら高額の授業料収入に頼る私学経営において,学生はサービス産業における重要な顧客という位置づけなのかもしれない。冒頭に掲げた意味不明のタイトル中の単語を任意に組み合わせると,減り続ける受験生を一人でも多く集めるためにここ数年全国各地の大学で新増設されている学部学科の名称が出来上がる。ご多分に漏れず,今いる学科の名称にもしっかり「環境」と「システム」が入ってる。まるでこれからの大学教育に必要とされているのは,学際的な問題解決能力の育成であるかのごとき風潮。実はこの「学際的な問題解決」というのは二十年以上も前に国立環境研究所(当時は国立公害研究所)が目指したものだ。今更ながら実に四半世紀先をも見据えた先進的な組織にお世話になったものだと感心している。

 環境問題に幾ばくかの興味を持つ学生にとっても,国立環境研究所という「学際的な」組織は一種の聖域として捉えられることが多く,国立環境研究所で環境の研究を行うことは永遠の「憧れ」でさえあるようだ。そんな学生達に「なぜ国立環境研究所をやめたんですか?」とか「もったいないですね」などと言われて返答に窮することもしばしば。自分でもだんだん「もったいないことをしたんだなあ」と考えるようになり,最近の国立環境研究所ニュースの人事異動欄を見るたびに「相変わらず,もったいないことをする人が後を絶たないな」と自分のことを棚に上げて呟いている。

 考えてみれば,自分の話を少しでも聞いた人間が毎年何百人も世の中に出ていくということは大変なことかもしれない。研究の世界では当たり前のことでも普通の人の知る余地のない重要な事柄は特に環境問題に関しては多いようにも感じられる。自分の研究成果だけで世の中を変えるようなことは多分ないだろう。その代わり,国立環境研究所の「もったいない」研究成果を一人でも多くの人々に正しく伝えていくことがもしかしたら世の中を変えることにつながるのではないかと期待しつつ,新しい講義ネタを国立環境研究所研究成果報告書をめくりながら探している今日この頃。

(あまの こうじ,立命館大学助教授)

執筆者プロフィール:

現在:立命館大学理工学部環境システム工学科助教授。前国立環境研究所社会環境システム部資源管理研究室主任研究員,工学博士。

<現在のあれこれ>卒論や修論でライフサイクル二酸化炭素排出量などを扱いながら,片道50kmを自動車通勤している矛盾に満ちた毎日。スポーツ(テレビで観るだけ),音楽(車中で聴くだけ),子育て(しんどいだけ?)で今日もリフレッシュ。