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古きをたずねて新しきを知る

海外からのたより

吉永 淳

図
写真 ハーバード大学自然史博物館

 ハーバード大学は米国マサチューセッツ州ケンブリッジにあり,1636年に創立されたアメリカでもっとも古い大学として知られています。ケンブリッジにはハーバード大学とマサチューセッツ工科大学があるほか,隣のボストンと合わせると,この地域に大小とりまぜて60以上の大学があるということです。ハーバード大学構内には歴史を感じさせる古い建物が多く,数多くの図書館,博物館,美術館があり,アカデミックな雰囲気に浸ることができます。またこの地域は地下鉄やバスなど,公共交通網が発達しているので,車がなくても生活できる米国でも珍しい街のひとつだろうと思います。

 私が現在所属しているのは人類学部 Archaeometry 研究室で,ハーバード大学自然史博物館(写真)のひとつである,Peabody Museum of Archaeology and Ethnology(ピーボディ考古学・民族学博物館)の一画にあります。 archaeometry というと聞きなれない方も多いかと思いますが,日本語で言うと「計量考古学」というのだそうで,化学的・物理学的手法を用いた考古学,と言えば少しわかりやすいかと思います。教授1,大学院生2,テクニシャン1という小規模なこの研究室では,安定同位体分析手法を利用した研究が主として行われています。オーストラロピテクスなど,数百万年前の人類の祖先は雑食だったのかベジタリアンだったのか,を化石となって残っている歯の炭素安定同位体を分析して調べる(どうやらこれまでの説に反して雑食だったようです),とか,ギリシャ彫刻の同位体分析から原料となった大理石の産地を調べる,という純粋な考古学・人類学的研究だけでなく,動物の化石骨・歯に記録された過去の気候変動を復元する古気候の研究,アマゾンの熱帯雨林における光合成をめぐる炭素循環に関する生態学的研究,さらには現代の象牙やサイの角の同位体分析をして,象やサイの生息地域を特定する(密猟かそうではないかを見分けることができる)といった自然保護的観点からの研究まで,幅広い研究がかなりのんびりと行われています。たったひとつの研究室でもこれだけ幅広い分野の研究ができるわけですから,安定同位体を用いた研究は,環境科学を含めた多くの学問分野でこれからもますます重要になっていく,という思いを強くしました。

 他の学部のことはよくわからないのですが,少なくとも人類学部や,分析機器を共有している地球惑星科学部では,大学院生・スタッフとも,毎日遅くまで研究活動をしており,土日出勤もごくごく当たり前にしています。アメリカではアカデミックな職の競争が激しい,というのはよく聞く話ではありますが,安定同位体地球化学の分野の仕事で,名だたる有名誌に数多くの業績を持ちながら,質量分析装置の維持管理業務を行うパートタイム職に甘んじている例を目の当たりにすると,やはり日本とはずいぶん違うものだと考えさせられます。

(よしなが じゅん,化学環境部計測管理研究室)