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国立環境研究所での20年を振り返って

(前)水土壌圏環境部上席研究官 相崎 守弘

 私が国立環境研究所(当時 国立公害研究所)に入所したのは昭和51年4月で,今年3月末に島根大学に転任するまで20年間国立環境研究所で過ごしました。入所当時は国立公害研究所はトロン(大型実験施設)研究所として特徴づけられていましたので,フィールドワークを得意とする私にはいささか勝手が違う感じでした。しかし,当時の合田部長の理解もあり,霞ケ浦を中心としたフィールドワークを展開することができました。今振り返りますと,トロン研究所としての国立公害研究所の当初の使命は既に終了したものと思われます。しかし,後には巨大な大型施設が残されています。これらの大型施設をどのように再生させ,環境研究所の中で位置付けてゆくかは,今後の研究所にとって大きな課題だと思われます。

 入所当初は研究所の人員も少なく,また過去の歴史もありませんでしたので,研究所員の1/3程度の人が参加した,霞ケ浦の富栄養化の問題をテーマとした大型プロジェクトが,スムーズに発足いたしました。当時はさほど重点化を意識した議論はなかったと思いますが,各部横断のプロジェクトが発足し,その後さらに各部が主体となったプロジェクトが,順次発足していったと記憶しています。現在は各人1プロジェクトに近い状態になっており,人によっては一人で2〜3のプロジェクトを背負っている人もいるように見受けられますが,当時は本来のプロジェクトとして十分に機能していたと思います。

 私としては,研究所の中核的な大型プロジェクトに当初より参加できたことが,現在,非常に大きな糧となっています。入所当初は湖沼研究を少しかじった程度の知識しかありませんでしたので,自分の研究分野の水圏での物質循環に関係する研究が,特に重要なのだとの思いで研究を進めてまいりました。現在もその意識に大きな変化ありませんが,湖沼環境保全のためにはその外の多方面の知識が必要であり,社会的側面,処理技術,市民参加など本当に総合的な取組みがなされない限り解決できない問題であると痛感しています。

 1988年以後はJICAでの韓国との共同研究,文部省科学研究費での中国との共同研究など国際共同研究の機会を持つことができました。これらの経験を通して,諸外国での湖沼研究の情況を知ることができました。

 一番驚いたことは,たいていの国に国立の湖沼研究所もしくは陸水研究所があり,多くの人が湖沼研究に従事していることでした。日本にも国立の湖沼研究所が必要だと思います。諸外国からは湖沼保全や水質改善を中心とした援助の要請が多数寄せられていると聞いています。国内でも湖沼環境基準の達成率は40%台に低迷しており,改善の気配が見られていません。日本の湖沼研究の情況は一時期の富栄養化問題のようなブームは去り,国立の研究機関や大学を見回してもあまり活発な情況とはいえません。国立公害研究所の発足当時は若い研究者が自己の研鑚と室長等からの教育を受けながら,一流の湖沼学者に育っていくことができたゆとりがありました。しかし,現在の国環研では湖沼学者を育てる余裕があるとは思えず,他の機関でもあまり期待できない情況です。国立の湖沼研究所があれば研究機関であると同時に教育機関としての機能も果たしてもらえるのではないでしょうか。

 国立環境研究所での20年間を振り返ると,湖沼研究の隆盛と衰退を当事者として経験し,衰退を止められなかったという責任を感じております。

(あいざき もりひろ,現在:島根大学生物資源科学部教授)