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はてな?,そして,”つぶやき”から”公言”へ

ずいそう

海老瀬 潜一

海老瀬  潜一の写真

 この4月に,16年間お世話になった国立環境研究所から大阪府寝屋川市にある摂南大学工学部に移った。まだ半年しか経っていないが,まず,変わったことと言えば,通勤時間が大幅に長くなってしまったことである。長い間 from door to door で10分もかからない恩恵に浴していたからである。16年前京都大学に勤務していた当時よりもさらに長くなった。通勤距離はさほど長くないのである。ラッシュアワーの道路・鉄道・駅等の混雑のさなかでの細切れの乗換えでは,ぼんやり考えごとをしていられる時間は全くない。混雑度はかつてよりもひどくなったと思われる。流行と世相の変化を身近に感じるくらいで,疲れるだけの時間かも知れない。今さらながら,つくばでの職住近接のありがたさを痛感させられている。

 もう一つ変わったことは,自分のこれまで研究領域から見て,狭い範囲の専門科目から広い範囲の専門科目まで担当することになったことである。教員当たりの学生数の多い私立大学ゆえに,受け持つ授業科目数・時間数が多いからであろう。大学と近くの市が提携した市民講座での講演もある。授業や講演のために,多くの人の書き物をもう一度見直す機会が増えた。これまで,自分なりに納得できない時は,はてな?と疑問を持ち,ぶつぶつ独り言ですませていたことから,自分の感想さらに見解までつけた解説へと変わったのである。困ったことに,範囲が広がったからと言って,いい加減な説明ではすまされなくなったのである。

 国環研では,広い分野にわたって専門家がたくさん揃っているので,すぐ近くの分野の問題でさえ,あまり公言することはなかった。また国環研では,すぐ近くの分野から少し離れた分野まで,わからぬことはそれぞれの専門家に,直に,疑問の解答やその専門家の自説も含めて,聞けるという環境にあった。しかし,今やそうは行かない。

 これまでよりはずっと広い範囲の内容を,授業や講演で話すという公言の機会が増えたのである。特に環境問題は,土木工学の分野や市民生活と密接な関係がある。はてな?の疑問を放り出したままでは話せないため,はてな?を自分なりになんとか解決して,自分はどう思うかまで明らかにしておく必要がある。そのための勉強に結構時間のかかる仕事となっている。国環研は,環境の専門家のデパートである。いろいろ教えて頂ける広い窓口をずっと備え,開け続けていてほしいと願っています。

(えびせ せんいち,現在:摂南大学工学部土木工学科教授)

執筆者プロフィール:

前国立環境研究所水土壌圏環境部水環境工学研究室長,工学博士
〈現在の研究テーマ〉降雨時流出水質負荷量の定量評価,河川水質と流域環境の関係解析など
〈趣味〉庭園めぐり