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中国雲南省におけるマラリアの疫学調査

研究ノート

小野 雅司

 「地球温暖化による動物媒介性感染症の拡大予測に関する研究」(地球推進費,平成3年度〜)の一環として,中国雲南省西双版納においてマラリアに関する現地調査を実施している。西双版納へは,上海,崑明で飛行機を乗り継ぐ2泊3日の旅である。当研究所からは筆者のみの参加であるが,日本からは他に,群馬大学,長崎大学,琉球大学,東京大学から十名弱のメンバーが参加し,中国からは,中国予防医学科学院寄生虫病研究所(上海市)と雲南省瘧疾(マラリア)防治研究所の研究者が参加している。なかでも,雲南省瘧疾防治研究所からは,毎回,所長以下十数名のスタッフ(他に車2,3台)の協力を得ている。主たる調査地域は,ミャンマー国境から30Kmほど離れた,街道沿いの,人口500人,水田およびゴム栽培を中心とした,亜熱帯に位置する農村の向東村である。雲南省はマラリア分布の中国における北限の一つと考えられており,向東村でも高度の流行(最近2年間の住民のマラリア罹患率50数%)が報告されている。現地調査においては,住民検診とマラリア媒介蚊(ハマダラカ,Anopheles)の採集および,気温,降水量の観測を行っている。

 住民検診においては,村内診療所に駐在する中国人スタッフの一人による,1年間のマラリア患者発生観察調査(passive case detection)とともに,3ヶ月に一度全住民を対象に,マラリア原虫検査と抗体価測定及びマラリア罹患に関する聞き取り調査を実施した(写真)。一方,媒介蚊の調査においては,雲南省瘧疾防治研究所の協力を得て,1年間,毎月1回定期的に,ハマダラカの生態調査(成虫調査:集落内の2地点における3人の調査員と1頭の水牛をおとりにした終夜採集,幼虫調査:集落内を流れる小川2点と水田におけるサンプル採集)を実施した。

 これまでの現地調査結果を要約すると,“診療所における継続観察調査および住民のマラリア原虫に対する抗体価分布から,向東村では熱帯熱マラリア,三日熱マラリアが年間を通して流行しており,患者は雨期初旬から増加し,雨期の終了とともに減少する。また同時に,気温,降水量の変化に対応して媒介蚊の発生消長が繰り返される。”

 中国雲南省における現地調査は,現在進行中のマラリア流行度の異なる3地域における疫学調査をもって終了予定であるが,現地調査と併行して,中国国内の主要なマラリア流行地である雲南省,広西省,海南省における過去のマラリア流行に関する資料を,中国予防医学科学院寄生虫病研究所の協力を得て収集している。今後,現地調査結果や収集資料に基づいて,気温・降水量をはじめとする環境因子とマラリア流行の関係を明らかにすることにより,温暖化に際してのマラリア流行域の正確な予測が可能となろう。

 余談になるが,雲南省西双版納には数多くの少数民族が居住しており,調査対象集落のうちの2つも愛尼,基諾という少数民族の村である。市街地にある招待所(公営の宿舎)近くの朝市でも,様々な民族衣装に身を包んだ人々の姿が目を引く。西双版納は専門誌等で取り上げられることも多く,民族学関係の研究者にとって魅力的な地のようである。

(おの まさじ,環境健康部環境疫学研究室長)

調査風景の写真

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