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"Thermal decomposition of tetrachloroethylene" Akio Yasuhara Chemosphere, 26, 1507-1512 (1993)

論文紹介

安原 昭夫

 本研究は特別研究『有害廃棄物のモニタリングに関する研究』の中で行った研究のひとつである。有害廃棄物の中でも塩素系有機廃溶剤はかなりの割合を占めており,これらの廃溶剤を熱分解処理・焼却処理した場合にどのような現象が起こっているかを明らかにする目的で,テトラクロロエチレンの熱分解実験を行った。

 実験は電気炉で一定温度に加熱された石英管に,一定濃度(111mg/L)のテトラクロロエチレンを含む空気を通して,テトラクロロエチレンがどのように分解し,また新たにどのような物質(主に有機成分)が生成するかをガスクロマトグラフィー質量分析法で調べたものである。高温帯での滞留時間は5~10秒間であった。

 図1にテトラクロロエチレンの残存率(%)と塩化水素,ホスゲンの生成量を示した。ホスゲンはJIS法で測定したが,630℃以上の熱分解では分析妨害物質が多量に生成したために,測定ができなかった。テトラクロロエチレンは400℃頃からゆっくりと分解し始め,600℃から急激な分解が起こり,800℃では完全に分解することが分かった。熱化学的な計算によれば,2秒滞留での99%分解温度は890℃と予測されているので,この実験結果とよく一致している。塩化水素やホスゲンは300℃ですでに生成し始めており,熱分解温度の上昇とともに,生成量は増加する傾向を示した。

図1  熱分解温度とテトラクロロエチレンの残存率のグラフ

 一方,有機系生成物の分析結果を整理して,表1に示した。生成物はすべて含塩素化合物であった。各生成物の質量スペクトルを測定して,大型電算機による検索システムを使い生成物の同定を行ったが,同定できたのは半数以下であった。熱分解温度の上昇とともに,生成する物質の数も増えていった。テトラクロロエチレンは炭素原子と塩素原子だけから構成されているので,理論的には炭素原子,塩素原子,酸素原子から構成される生成物のみができるはずであるが,テトラクロロエチレン中に含まれている少量の水分のために塩化水素や表に示した生成物が生じてくる。熱分解温度の変化と生成量の変化を調べた結果,次の3つのグル−プに分けられた。(1)熱分解温度の上昇につれて生成量が減少していく化合物群,(2)熱分解温度の上昇と共に生成量が増加していく化合物群,(3)熱分解温度に関係なく生成量がほぼ一定の化合物群。この実験で同定された生成物の多くは,塩素系有機物の燃焼で生成すると予測されていたものと一致している。現時点で,各々の生成物がどのような反応経路で生成したかを議論するにはデータが不十分である。トリクロロエチレンに比べて,テトラクロロエチレンの熱分解生成物量はずっと少ないことが分かった。また,トリクロロエチレンや塩素系樹脂の熱分解と比べて,テトラクロロエチレンの熱分解での特徴的な点は塩素化芳香族化合物の生成がまったく観察されなかったことである。

(やすはら あきお,化学環境部計測管理研究室長)


表1  テトラクロロエチレンの熱分解生成物と生成量