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“Role of Heterotrophic Bacteria in Complete Mineralization of Trichloroethyleneby Methylocystis sp. Strain M.”Hiroo Uchiyama, Toshiaki Nakajima,Osami Yagi and Tadaatu Nakahara:Applied and Environmental Microbiology,58,3067-3071 (1992)

論文紹介

内山 裕夫

 トリクロロエチレンは低分子の揮発性有機塩素化合物であるが,優れた脱脂力を有するためIC産業等で広く用いられている。全国各地の地下水より検出され,一方,動物実験によって発がん性が疑われていることから社会問題となっている。これまでに微生物を用いた地下水汚染浄化に関する研究が主に海外において活発になされており,我々もメタンをエネルギ-源として生育するメタン酸化細菌 Methylocystis sp. strain M(M株)が35mg/lのトリクロロエチレンを分解することを報告した。分解菌を汚染地下水浄化に応用する場合には分解産物を明らかにしておく必要があるが,これまでほとんど解明されていない。本論文では,M株によるトリクロロエチレン分解産物を同定すると共に,従属栄養細菌との混合系によって分解産物をさらにCO2へと完全無機化できることを示した。

 まず,14Cでラベルしたトリクロロエチレンを用いてM株単独および混合系MU-1において,140時間分解反応を行い,分解産物のパタ−ンを比較した。単独系では全放射能活性のそれぞれ約3割が水溶性化合物画分とCO2+CO画分に認められたが,混合系では水溶性化合物画分が約1割に減少し,かわってCO2+CO画分が5割へと増加した(図参照)。また,高速液体クロマトによって水溶性化合物画分の内容はジクロロ酢酸,トリクロロ酢酸のハロ酢酸の他にグリオキシル酸であることが判明したため,これら化合物は混合系ではさらに分解され,CO2に完全無機化されることが推定された。

図  14C-トリクロロエチレン分解後の放射能活性の分布

 次に,分解産物パタ−ンの相違が混合系に存在するM株以外の菌に由来しているのか,検討を行った。寒天平板培地を用いて繰り返し分離作業を行った結果,混合系MU-81はM株のほかにDA4株,NG2株および枯草菌に属する1株の計4種類の細菌からなっていることが判明した。このうち,完全無機化に直接関与しているのはDA4株であり,分類同定の結果,ハロ酢酸分解能を有する新奇な従属栄養細菌の一種であることがわかり,Xanthobacter autotrophicus DA4と命名した。M株とDA4株を混合することにより,MU-81系と全く同等のトリクロロエチレン分解能および分解産物パタ−ンを得ることができた。

 分解産物パタ−ンをさらに詳細に検討した結果,トリクロロエチレンがM株によって分解される過程で一次的にCOとグリオキシル酸が生じ,さらに CO2へと無機化されることが明らかとなった。また,ジクロロ酢酸とトリクロロ酢酸はM株では分解されないがDA4株によって前者は完全に,後者は約半分が分解されてCO2へと無機化されることが確認された。今後,反応条件をさらに検討することにより,トリクロロ酢酸のより完全な無機化が達成されるものと考えられる。

 これまでに,トリクロロエチレン分解菌としてM株を含むメタン酸化細菌の他にトルエン・フェノ−ル分解菌,アンモニア酸化細菌,アルケン資化性菌等が報告されている。これらを汚染現場において使用する際には分解産物を同定すると共に,完全無機化に重要な役割を担うDA4株等の従属栄養細菌の菌数および分解特性等を知ることが,より有効な浄化法を生み出すものと考えられる。

(うちやま ひろお, 水土壌圏環境部水環境質研究室)