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関西地域における春季高濃度大気汚染の生成機構調査

プロジェクト研究の紹介

若松 伸司

 大都市地域においては二酸化窒素(NO2)による大気汚染が依然として改善されておらず,高濃度出現地域は広域化の傾向にある。環境庁は東京,神奈川,大阪三地域におけるNO2汚染を改善するために,1992年に自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(自動車NOx法)を制定し,今後の対策の強化をはかって来た。発生源から排出される窒素酸化物はその約9割が一酸化窒素(NO)であり,環境大気中においてオゾン(O3)やRO2ラジカルと反応する事によりNO2となるため,高濃度NO2の生成機構を解明するためには反応,気象,発生源の関連性を総合的に把握することが重要である。

 都市域においてNO2が高濃度になるのは12月を中心とした冬季であるが,関西地域においては4月を中心とした春季にも冬季と同程度の高濃度が出現する。しかしながら春季におけるNO2の立体分布に関してはこれまでほとんどその実態が明らかにされていない。国立環境研究所では1993年度から4年間の予定で特別研究「環境負荷の構造変化から見た都市の大気と水質問題の把握とその対応策に関する研究」を実施しているが,その一環として関西地域の関係自治体と共同して春季高濃度大気汚染生成機構解明のためのフィールド観測を行った。

 観測地域は大阪府,京都府,奈良県,兵庫県,観測期間は1993年4月19日〜4月26日で,この間に航空機観測2日間を含む集中観測も実施し,関西地域におけるNO2濃度の立体分布や光化学大気汚染,エアロゾル汚染等の生成機構を調べた。

 観測期間前半の4月19日~21日にかけては関西地域は移動性高気圧に覆われ,最高気温は25℃以上であった。図1に大阪市内においてレーザーレーダーを用いて観測したエアロゾルの垂直分布を示す。3日間ともに早朝から午前中にかけて高濃度が出現しており,特に19日と20日の2日間については早朝は300〜500mまで,午前中は800〜1000mまでの範囲で高濃度のエアロゾルが認められた。午後から濃度が低下したのは西風系の海風が入り風速も強まったためである。また21日の夜中には降雨があったためこれに伴う雲が上空1500〜2000mの所に観測されている。

図1  1993年4月19日〜21日にかけて大阪市内においてレーザーレーダーを用いて観測したエアロゾル濃度垂直分布の経時変化

 レーザーレーダーの観測やこれと同時に行った低層ゾンデによる観測結果から日中における混合層高度は午後には2000m以上になることが分かった。図2には20日に実施した航空機観測の飛行コースを,図3にはこの時のO3の垂直分布観測結果を示したが,高濃度の光化学O3層が2400m以上まで達していた。この高度は夏季における関東地域の高濃度出現高度よりもかなり高いことが特徴的であった。図中に示した横のラインは図2の飛行コースにおける三高度の全データであり,垂直分布は大阪湾岸地域におけるスパイラル観測結果である。

図2  1993年4月20日,11:55〜14:02に実施した航空機観測コース
図3  O3濃度の垂直分布観測結果

 地域的には大阪平野の東部地域で高濃度の光化学O3が認められ,特に生駒山地と金剛山地の境界の谷沿地域の上空300~600mの間に120ppb以上のO3が観測された。(4/20,12:00〜13:00)一方,生駒山頂(600m)においては午後から深夜にかけて80〜 100ppbのO3が認められ(4/19,20),4月21日の午後2時には120ppbの最高値が出現した。また4月19日の午後6時頃には60ppb以上のNO2濃度が山頂において観測された。

 春季における大気汚染物質の立体分布観測は我国においてはあまり例が無いが,春季においても気象条件によっては100ppb越える高濃度の光化学O3が出現し,これとともにNO2濃度やエアロゾル濃度も上昇することが分かった。

 今回はこのような広域大気汚染の観測とともに沿道周辺大気環境の調査も同時に実施しており,様々なスケールの春季高濃度大気汚染を統一的に解析・評価することとしている。今後は発生源データの検討や風洞実験,予測モデルの利用等を行いながら,総合的な対策シナリオを明らかにしていきたい。

(わかまつ しんじ,地域環境研究グループ 都市大気保全研究チーム総合研究官)