ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

人工衛星可視域データのグローバルマッピングによる広域海洋環境変動に関する研究

プロジェクト研究の紹介

原島 省

 人間活動の発展とともに,C,N,Pなどの循環はかく乱を受けている。これらのかく乱分は最終的には海洋に負荷されているから,海洋環境がどのように変動しているかを把握することは非常に重要である。ただし,人為影響分のほかに,自然由来の時空間変動が大きいため,研究手段の検討が必要である。海洋環境パラメータのうちで,植物プランクトンバイオマス量は,クロロフィル等の光学的性質により,衛星観測や連続計測といった土俵にのせることができる。このような考えから本研究課題は,地球環境研究総合推進費による研究として,遠洋水産研究所,資源環境技術総合研究所,国立環境研究所,気象研究所で分担し,1990年にスタートした。

 衛星データを環境変動の評価に用いるためには,大気エアロゾル補正などいくつかの問題を解決しなくてはならず,検証用の現場計測データが必要である。また,地球環境の変動の評価には長期時系列をとることが重要であるが,衛星データには雲による欠測がある。さらに,衛星によるクロロフィル推定値と現場海洋での環境要素の関連を明らかにするためにも,海洋を頻繁にかつ長期間継続してスキャンできるプラットフォームおよびセンシング技術が必要となる。

 このような経緯で,国立環境研究所担当のサブテーマとして,日韓フェリー(釜山−神戸)の連続取水系(インテイク)を用いて,連続計測を行う方法の概念設計を行った。1991年より蛍光光度(植物プランクトンのクロロフィル量をほぼ代表する),pH等の連続計測と栄養塩の自動サンプリングを地球環境研究センターのモニタリング業務として実行に移した。日韓航路の選定は,外洋性陸棚海域と人為影響の強い瀬戸内海域を同一のセンサーで計測し,対比できるという意味を持つ。また,対馬海峡域には漸次,アジア域の人為影響が加わりつつあるという点も重要である。

 さらに同インテイクを用いて,プランクトンバイオマス組成計測,レーザーセンシング手法の開発(近畿大学との共同),溶存二酸化炭素分圧(pCO2)の計測(海洋化学研究所(財)との共同),および各データの統合による海洋環境変動の評価を行った。

 図1に海水のpCO2およびクロロフィル濃度の分布を示す。実線は1992年3月,点線は7月の調査時を示す。左端が釜山,右端が神戸であり,左側 1/3が対馬海峡を示す。3月には,植物プランクトンブルーミング開始時のため,クロロフィル濃度が全体的に高く,しかも光合成のため,クロロフィル濃度とが逆相関を示した。一方,7月には,栄養塩枯渇のためブルーミング(大増殖)が終了しており,バイオマス濃度が低かった。またpCO2も全体的に高かった。これによりpCO2が海水温に依存することが分かる。また,燧灘東部で特にpCO2が高くなり,大気側のpCO2を超えていた。この原因は,今後検討する必要があるが,海底に堆積した有機物の分解により溶存無機炭素濃度(DIC)が上がり,この海水が鉛直混合で表層のpCO2を上げていたものと考えられる。また,図2は植物プランクトン分類群別バイオマス(炭素量換算)を示す。瀬戸内海東部で渦鞭毛藻の割合が高く,対馬海峡域でシアノバクテリアの割合が高かった。これらの差異は,海域の各栄養塩レベルの違いを反映しており,しかも,ブルーミングの時期に依存している。

 以上の結果から考えて,今後,植物プランクトンバイオマスなどの生物地球化学パラメータを連続的,系統的にモニターすること,衛星と並んでferry intake sensingとでも言うべき分野の発展が必須である。

(はらしま あきら,地球環境研究グループ海洋研究チーム総合研究官)

図1  日韓航路上の海水の二酸化炭素分圧およびクロロフィル濃度の分布
図2  植物プランクトン分類群別バイオマス組成(炭素量換算)