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“Mast cell response to formaldehyde 1.Modulation of mediator release” Hidekazu Fujimaki, Akiko Kawagoe, Elyse Bissonnette, Dean Befus:Internati-onal Archives of Allergy and Immunology,98,324-331(1992)
“Mast cell response to formaldehyde 2.Induction of stress-like proteins” Hidekazu Fujimaki, Toru Imai, Dean Befus:International Archives of Allergy and Immunology,98,332-338(1992)

論文紹介

藤巻 秀和

 今回紹介する2報の論文は,室内汚染物質として,あるいは自動車の排気ガス物質としてわれわれの生活環境中に含まれるホルムアルデヒドがアレルギー性鼻炎や気管支ぜん息などのアレルギー反応の発症に関与している肥満細胞の働きをどのように修飾するのかということについて明らかにした研究の一部である。

 最初の論文では,ラットの組織から単離した2種類の肥満細胞(皮膚,腹腔内,その他の臓器の結合組織部に含まれる結合織型肥満細胞,及び主に鼻,肺,消化管などの粘膜組織に含まれる粘膜型肥満細胞)を用いてその化学伝達物質の遊離機構へのホルムアルデヒドの作用について調べた。まず,種々の濃度のホルムアルデヒド溶液処理した肥満の細胞からのヒスタミンの遊離を測定した。高濃度(100μg/ml)のホルムアルデヒド処理によって粘膜型肥満細胞の約40%,結合織型肥満細胞の約8%のヒスタミンの遊離がみられた。アレルギー反応の誘導に必要なIgE抗体で前もって感作した肥満細胞をホルムアルデヒドで処理して,抗原刺激により誘導されるヒスタミン遊離を調べた。その結果,低濃度(5〜10μg/ml)のホルムアルデヒド処理によって結合織型肥満細胞では有意に高いヒスタミン遊離がみられたが,粘膜型肥満細胞では逆にヒスタミン遊離の抑制がみられた。高濃度では両細胞のヒスタミン遊離が抑制された。肥満細胞内の顆粒に結合していたβ-hexosaminidase酵素の遊離についてもヒスタミンと同様の増大がみられた。A23187により人為的にカルシウム濃度を制御しても,ホルムアルデヒド処理したあとの結合織型肥満細胞でのヒスタミン遊離においてIgE抗体−抗原系と同様の結果が得られた。

 この研究の結果から,ホルムアルデヒドはラットの2種類の肥満細胞からアレルギー症状を引き起こす化学伝達物質の遊離を誘導するが,ホルムアルデヒドの濃度や肥満細胞の種類の違いでその作用が異なることが示唆された。

 次の論文は,肥満細胞をホルムアルデヒド処理すると,確かに処理直後ではヒスタミンなどの遊離がみられたが,3時間後にはそれが観察されなくなり,その時に細胞内に熱ショックタンパク,(あるいは,ストレスタンパク)に類似したタンパクが誘導されていたことを明らかにしたものである。ラット腹腔より単離した結合織型肥満細胞を種々の濃度のホルムアルデヒドで処理したあと,3時間恒温槽内で培養した。タンパクの合成を放射性同位元素で標識したアミノ酸の取り込みで調べると,ホルムアルデヒド濃度に依存した減少がみられた。放射性アミノ酸を取り込んだタンパクを一次元,及び二次元の電気泳動法で分析して,熱処理や過酸化水素処理した肥満細胞からのタンパクと比較検討した。その結果,熱ショックタンパクと類似のタンパクが誘導されること,その中のタンパクの一部はこれまでに別の細胞で報告された熱ショックタンパクと同一であることが示された。低濃度ホルムアルデヒド処理直後ではIgE抗体を介するヒスタミン遊離は増大していたが,3時間後には有意な抑制がみられた。

 この研究の結果から,肥満細胞をホルムアルデヒド,熱,過酸化水素で処理すると新しいタンパクの合成がみられること,そのときに肥満細胞内でのヒスタミン遊離のための情報伝達系がなんらかの修飾をうけていることが示唆された。

(ふじまき ひでかず,環境健康部病態機構研究室)