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人工環境下での植物の環境耐性反応及び生理生態機能の実験的解明

経常研究の紹介

名取 俊樹

 近年、砂漠化、温暖化等種々の環境問題が注目されており、当研究所においてもそれぞれのプロジェクトが組織され、地球規模の視点から活発に研究が進められている。私が所属する生物圏環境部環境植物研究室も、基盤研究部の立場からこれらの地球規模環境問題を考えた。そして、これらの中から砂漠化の問題を選び、砂漠化が現在進行している中国について種々の文献調査を行った。その結果、中国の砂漠化進行地域では、夏に地表温度が70℃を超えるような厳しい高温になることや降水量に比べて蒸発散量が極めて多く乾燥状態になること、土壌の塩類濃度が高い場所が多いこと、また、これらの地域に生育する植物は、通常私たちが目にする植物とは形態的に極めて異なることが分かった。しかし、これら植物についての基礎的な知見である耐乾性や耐塩性機能については、未知のことが多く、まずこれらの植物の耐乾性や耐塩性機能を明確にする必要があると考えた。そんなときに、科学技術庁振興調整費による砂漠化機構の解明に関する国際共同研究に参加する機会を得たので、“人工環境下での植物の環境耐性反応及び生理生態機能の実験的解明”を受け持ち、現在研究を進めている。実験を進めるにあたり、まず、中国の新疆地区と内モンゴル自治区の砂漠化進行地域に生育する植物約30種を導入した。しかし、これら植物の栽培条件は今まで私たちが実験で用いていた植物と極めて異なったため、これら植物を実験植物として使えるように栽培法を確立することから始めた。現在では栽培法の確立を終えて、これら植物の耐乾性や耐塩性機能の解明実験を行っている。栽培法を確立していく過程で、興味深い性質を持つ植物が幾つかあったので、その一例を述べると、固定砂地や砂あるいは礫の山の斜面に生育する沙冬青の発芽が、80℃の熱湯に浸けると早くかつ揃うことが分かった(図)。この植物の生育地では、春から初夏に雨が集中する発芽に適した短い時期がくることから、この発芽特性は、地表温度が上昇することを種子が感知し発芽時期を調整していることを示唆するのではと考えている。この他にも耐塩性が高い植物の興味ある特性が明らかになってきている。将来、ファイトトロンを用いた耐乾性や耐塩性機能の特性解明に加えて、現地において実証実験ができればと考えている。

(なとり としき、生物圏環境部環境植物研究室)

図  沙冬青の種子の発芽に対する熱湯処理の影響