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筑波で観測された大気中のオゾンと7Beの濃度変化

経常研究の紹介

土井 妙子

 地表付近の大気中に存在するオゾンは、人為起源と自然起源の双方に由来している。人為起源のオゾンは、窒素酸化物や炭化水素などの光化学反応によって生成するいわゆる光化学オキシダントである。一方、自然起源のオゾンは成層圏オゾンの降下が主であると考えられている。

 最近、対流圏オゾンの増加と極地域での成層圏オゾンの減少が懸念されているが、この現象を解明するために、成層圏オゾンが地表付近のオゾン濃度にどの程度寄与しているかを推定することが必要と考えられる。いろいろの事例一つ一つについての研究例はいくつかあるが、一致した見解は得られていない。

 私達のグループは、地表付近のオゾンの濃度変化に、主として成層圏に起源をもつ7Beの濃度変化がどのように対応しているのかを調査している。大気中の7Be(半減期:53.3日)は成層圏で酸素や窒素と宇宙線との核反応によって生成される。オゾン濃度は筑波山山頂で、7Be濃度は所内で観測している。図aに筑波山山頂におけるオゾン濃度の月別平均値の変化を、図bにはエアロゾル中の7Be濃度の月別平均値の変化を示した。 これを見ると、オゾン濃度の変化パタ−ンと7Be濃度の変化パターンは互いによく類似し、ともに4月、5月に最大値を示し7〜8月にかけて最小値を示し、10月に再び上昇し、その後、秋季から冬季にかけて低下する二山型で両者の変化パターンは互いによく合致している。

 従来からオゾンはスプリングリークにより成層圏から降下してくることで、北半球中緯度地域では春季に地表付近の濃度が高くなり、年平均値の1.5倍ないし2倍になることは知られているが、秋季にも高くなることがこの観測で認められた。また、この季節変化は春季と秋季にピークを持つ中緯度地域における7Be濃度の季節変化とよく一致している。

 春季や秋季には移動性高気圧が頻繁に通過し、春季だけでなく秋季にも成層圏から対流圏への大気の流れが起こりやすく、このため成層圏起源の7Beやオゾンが地上へ導入されやすくなると考えられる。秋季はこの移動性高気圧のために、大気が安定し太平洋高気圧におおわれることの多い夏季に比べ、7Beやオゾンの地上濃度が増加して二山型の季節変化を示すことになると考えている。7Beとオゾン濃度の同時観測をはじめて6年近くになるが、1975年1月にドイツのZugspitzeで観測された「圏界面の対流圏への折れ曲がり現象」によるといわれるオゾン濃度と7Be濃度の一時的で著しい増大(オゾン濃度が193ppbで筑波山の年平均値の約5倍で、7Be濃度が通常の6倍)に相当する現象は今のところ観測されていない。

(どい たえこ、水土壌圏環境部土壌環境研究室)

図a  筑波山山頂(標高868m)におけるオゾン濃度の月別平均値の変化
図b  7Be濃度の月別平均値の変化