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“銅の国”から

海外からのたより

稲葉 一穂

 −アリゾナ−インディアンの言葉で銅の国を意味するこの州の南部、メキシコ国境まで100kmの町ツーソン。赤レンガの建物にサボテンが繁り、スペイン語が聞こえるこの町の中心に1885年創立のアリゾナ大学がある。

 3月より同大学化学科有用金属資源回収研究所において希土類元素の溶液内での物理化学的挙動の研究を行っている。希土類は有用工業資源であり、ハイテク汚染の主要物質でもあるが、相互分離が難しいことで知られている。この金属の錯体生成/解離機構を解明し、効率的な分離分析法を確立するのが私のテーマである。現在までにミセル水溶液を用いたミクロ抽出の速度論解析から、各元素間で錯体の解離速度に大きな差があることを明らかにすることができた。これはクロマトグラフィーを用いた分離では分配平衡のみならず分配速度も分離効率に大きく寄与し、相乗的な分離効果が期待できることを示している。

 所長のH. Freiser教授は分離分析の大家として著名であるが、古稀を越えてなお第一線で活躍されているバイタリティには驚かされる。「私の教えたことよりも多くのことを私に教えてくれた時に初めて学位を取る資格を得るのです。」という彼の言葉は、オリジナリティを大切にするこの国で一人前の研究者とはどういうものであるかを教えてくれる。

 アメリカ生活も既に5か月を過ぎたが、日本と大きく異なる印象を受けたのは町のあちこちで見かける単独行動の車椅子や盲導犬の人達の明るく自信に満ちた姿である。晴天率が高く温暖なことから、保養地として有名なこの町には高齢者や病気療養者が多いためと言えば簡単だが、一人一人が自分の責任で行動している姿と、彼らの権利を対等に扱い単独行動が可能な町を作り上げた社会の姿勢から、日本で考えていたものとは異なるこの国の“個人主義”を知ったような気がする。

 あと半年、研究はもちろん、この国を少しでも理解して帰国したいと思うこの頃である。

(いなば かずほ、地域環境研究グループ化学物質健康リスク評価研究チーム)

OLD  MAIN の写真 1885年創立時の校舎でアリゾナ州の文化財。現在も校舎として使用されている。