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大気汚染物質と肺腫瘍発生

研究ノート

市瀬 孝道

 日本人の肺ガン死亡率は年々増加し、男性では1990年にはガンによる死亡率の中でトップになるだろうと予測されている。一方、大気汚染レベルの高い都市の方が大気汚染レベルの低い農村部より肺ガンによる死亡率が高いという疫学調査の結果や、大気汚染物質のO3の発ガン性や腫瘍促進作用、さらにディーゼル排気ガスの発ガン性を示した実験的研究等から、大気汚染物質と呼吸器ガンとの関連が示唆されている。また、食生活と肺ガンとの関係についても指摘されている。近年の日本人の食生活が変化し、脂肪摂取量は総食事量の20%を超え、欧米型の食生活に近づきつつある。しかし、高脂肪特にリノール酸を多く含む高カロリー食への変化が肺ガン発生の重要な因子となっていると考えられている。

 そこで我々は先ずNO2やO3の単一暴露あるいはNO2、O3及び硫酸ミストの複合暴露による腫瘍発生促進作用を調べた。この実験では肺に腫瘍を起こす発ガン剤をラットに前投与して、この翌日からそれぞれのガスを暴露した。NO2とO3の単一暴露では肺腫瘍発生促進作用を示さなかった濃度でも、これらを複合暴露した場合では肺の腫瘍発生を有意に増加させた。次に高脂肪食摂取によるディーゼル粒子(DEP)の呼吸器腫瘍発生に対するリスクの上昇の有無についてマウスを用いて調べた。図に示したように、高脂肪食(リノール酸を多く含む飼料)を摂取したマウスは普通脂肪食を摂取したマウス及び普通脂肪食+DEP気管内投与したマウスより、肺の腫瘍発生率、1匹当たりの腫瘍の数ともに増加したが、高脂肪食摂取+DEP気管内投与群では、高脂肪食摂取群よりもさらに、肺の腫瘍発生率と腫瘍の数が増加した。このように、高脂肪食摂取によりディーゼル粒子の肺腫瘍発生に対するリスクの上昇が見られた。今後は日本の現実に近い脂肪摂取量レベルで、ディーゼル排気の肺腫瘍発生に対するリスク評価を行う必要性があると考えられる。

(いちのせ たかみち、地域環境研究グループ大気影響評価研究チーム)

図  食餌性脂肪含量がディーゼル粒子(DEP)の肺腫瘍発生に及ぼす影響