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レーザーレーダーと高濃度大気汚染

研究ノート

松井 一郎

 当研究所でのレーザーレーダーを用いた研究は、大型で固定型の大型レーザーレーダー装置、オゾンレーザーレーダー装置と、計測車に搭載できる小型で移動型のレーザーレーダー装置等により行われている。ここでは、移動型レーザーレーダー装置により行った冬期の都市域で夜間に発生する高濃度大気汚染現象の観測結果を紹介する。

 使用したレーザーレーダーは、大気中を浮遊するエアロゾル濃度の高度分布を時間的に連続してとらえることができる。測定されたエアロゾル濃度の高度分布は大気の成層構造を反映することから、地上から高度約1,000m付近までの低層大気構造を検出することができる。都市での低層大気構造は日中の混合層及び夜間の都市境界層により構成されている。都市境界層とは、都市域で建造物による機械的な混合や都市の排熱による熱的な影響で夜間においても混合された大気状態の形成されている層である。低層大気構造の観測は地上から排出された汚染気体が低層大気構造内で移流・拡散を行っていることから、大気汚染現象の発生機構を解明するうえで重要な要素の一つとなっている。しかしながら、これまでの低層大気構造の観測は気象ゾンデによる観測が主であり、時間的に連続した長期的な観測は原理上、難しいことから行われていなかった。

 レーザーレーダー観測を1988年12月の1か月間にわたり東京都心部で行った結果をもとに、夜間の高濃度大気汚染発現の状況を調べた。晴れた日の夜間形成される都市境界層高度は約200mであった。解析は、レーザーレーダーで測定された都市境界層高度と気象観測での平均風速の積の逆数で定義される停滞係数(Stagnant Factor)を提案して行った。停滞係数と同時に大気測定局で測定された夜間平均のNOx濃度との関係を示した結果を図に示す。黒丸は曇りの日で都市境界層の形成がなかった日である。図より停滞係数の値が大きいとき、つまり都市境界層高度が低く、風速の弱い日ほど高濃度が発生しており、停滞係数をパラメータとしてNOxの高濃度発生が説明できることが明らかとなった。また、NO2濃度についても停滞係数とよい相関が得られた。今後、大気汚染研究を進めていくうえでレーザーレーダーが有用な観測機器として利用されていくことが期待される。

(まつい いちろう、大気圏環境部大気動態研究室)

図  夜間平均の停滞係数と夜間平均のNOx濃度の関係