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手軽で簡便な地盤沈下観測システム

経常研究の紹介

陶野 郁雄

 地盤の沈下状況を把握するためには、地表面の高さ、地盤沈下を生じさせる外力、及び外力の影響を受ける種々の地層収縮量を継続して観測し、これらの時間的経緯を知る必要がある。地表面の高さは面的に広く把握する必要があるので、ある水準点を不動点とし、各水準点の標高を一定期間ごと(少なくても1年1回)に水準測量を行う方法がとられている。地盤沈下は大抵の場合、地下水を揚水したことによって地盤内の水圧が減少するために生じる。そこで、観測井を設けて、地下水を採取している地層の地下水位(水圧に換算可能)と地表面から井戸の底までの距離を継続して観測し、その状況を把握する方法がとられている。

 観測井による調査は大掛かりとなり、莫大な経費がかかる。そこで、1986年より故岩田 敏研究員とともに手軽で簡便な観測システムの開発に取り掛かり、1988年に試作品を完成させた。この地盤沈下観測システムは、単に経費が安く、ボーリング孔のような小さな径でも観測を行うことができるだけではなく、手軽で簡単に着脱でき、運搬が可能なため、既存の井戸にも適宜取り付け、地下水位と地盤の収縮量を観測することができるという特色を有している。

 佐賀県有明町有明東小学校で実施したボーリングの孔を利用しての地盤沈下観測が佐賀県の協力により行えるようになった。そこで試作品を改良し、1989年10月に設置した。観測システムの概念図を図1、現地の状況を写真に示す。地盤の収縮量は、ステンレス製重りを孔底に降ろし、地上にある重りとの間を直径0.8mmの合成繊維製ワイヤーで引っ張り、地上にある重りの移動量を磁歪式沈下計で計測する方法をとっている。また、地下水位は小型間隙水圧計で計測を行っている。そのほか、鉄製ケーシングの管頭抜け上がり量、外気温・室温も同時に測定している。ケーシングの長さが常に一定、地盤との摩擦力も無視できると仮定すると、管底までの地盤が沈下しただけ管頭が抜け上がることになり、従来の観測方法の多くはこのような方法によっている。測定したデータは5分間に1回の割合でデータ・ロガーを介して収集・処理している。さらに、4時間に1回の割合でディスクに記録し、保存している。これらのデータは本研究所だけでなく、佐賀県など複数の機関にも電話通信回線を使って転送できるようになっている。図2は1991年2月末までの観測記録を示したものである。観測は2つの深さで行っており、観測−1は、更新世中期に堆積した多良岳起源の礫層の地下水位(水頭−1:ストレーナー深度約100m)とこの層の基底部(深さ126m)までの地盤収縮量(沈下−1)を測定している。観測−2は、更新世末期に堆積した沖積層最下部層の地下水位(水頭−2:ストレーナー深度約28m)と沖積層基底部(深さ31m)までの地盤収縮量(沈下−2)を測定している。図2では地盤収縮量を地盤高に換算して表している。水田を冠水させるため、地下水を多量に揚水するので、地下水位は夏に低下し、冬は元の高さまで回復する。しかし、地盤高は地下水位が回復してもほとんど回復しないか、低下し続ける。このようにして地盤の沈下量は累積していく。

 地盤沈下は海水面からの高さの変動を問題にすることが多い。海水面が上昇すると、地盤が沈下しなくても相対的に地球規模の地盤沈下が生じたことになる。近い将来世界中の平地部で観測を行うことになるかも知れない。このためにも、さらに手軽で簡便な観測システムへと改良を加え、実用化を図っていく必要がある。

(とうの いくお、水土壌圏環境部地下環境研究室長)

図1  新しい地盤沈下観測システムの概念図
図2  佐賀県有明東小学校における地盤沈下観測記録
佐賀県有明東小学校内に設置した簡便な地盤沈下観測装置の写真