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2015年12月28日

環境中のヒ素と毒性

コラム1

図1:ヒ素の分析に使用する誘導結合プラズマ 質量分析計(ICP-MS)
図2:バングラデシュの井戸

 ヒ素は単体として、またはさまざまな無機ヒ素化合物や有機ヒ素化合物として、自然界の鉱物、水、堆積物、また食べ物などに含まれ、環境中に広く分布しています。生体内にはppb (10億分の1)のオーダーで存在し、生命の維持に必要な「超微量元素」とも考えられています。しかしながら、ヒ素は有害性が高く、微量であっても長期間摂取すると、角化症などの皮膚疾患や発がん、および代謝疾患、神経疾患、免疫抑制など、慢性ヒ素中毒による健康被害をもたらすことが知られています。
 現在、大きな環境問題の1つになっているのが東南アジアをはじめ世界各地で発生している井戸水の無機ヒ素汚染です。たとえば、バングラデシュではかつてため池などの表層水を利用していましたが、1970 年代からより衛生的な水を得るために井戸を掘って地下水を利用したところ、地層から高濃度の無機ヒ素が混入し、健康被害が発生しています。場所によっては、1 ppm(100万分の1)以上の高濃度のヒ素が検出されています。このようにヒ素の健康被害が確認されてもなお、技術的、経済的な理由から安全な水の確保が実現できない地域が多く、慢性ヒ素中毒の患者数は世界で数千万人にも上るといわれています。
 我が国では、水道法によって、水道水に含まれるヒ素およびその化合物は0.01ppm以下でなければならないと水質基準値が定められています。しかし井戸水については、それより高濃度のヒ素が含まれるケースが見つかっています。また、日本人はヒ素の含有量が高い海藻や魚介類を食べる習慣があり、一部の高曝露集団では健康に悪影響を及ぼしうる量のヒ素を摂取している可能性が指摘されています。
 ヒ素は私たちの身の回りに常に存在し、健康被害をおこす可能性のある元素です。このような状況から、生体への影響を評価するために、曝露の実態調査、毒性メカニズムや代謝機構の研究が必要であると考えられています。