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2014年9月30日

子どもの健康と環境に関する疫学研究の動向

研究をめぐって

 環境省は2011年から、日本ではかつてないほどの規模の疫学調査を開始しました。それは、全国で10万人の妊婦に調査に参加していただき、子どもが生まれてから13歳に達するまでの間、健康と環境との関連性を調べるという大規模で長期間にわたる壮大な疫学調査です。国立環境研究所はその調査実施の管理運営のまとめ役をすることになりました。

 環境汚染による健康被害の問題が生じた際に、胎児や小児が同じ環境にいた大人よりも深刻な被害を受けたと考えられるいくつかの事例があり、環境の変化に対する子どもの脆弱性への関心が世界的に高まっています。そこで、世界各国で、環境と子どもの健康との関連性を解明し、子どもの健康を守るための方策を見出して、予防・治療に役立てようとする疫学調査が開始されています。

世界では

 1997年の子どもの環境保健に関する8カ国環境大臣会合では、子どもの環境保健は環境問題の最優先事項であり、子どもの健康と環境との関連性に関する研究を推進し、子どもに注目したリスク評価の実施や基準設定等にその結果を反映させることなどが示されました(マイアミ宣言)。

 現在、計画中ないし進行中の調査研究の中で、世界で最も大規模なものは全米子ども調査(National Children's Study)です。2000年からパイロット調査の実施、調査計画立案、調査地域、調査実施機関の 選定作業などの準備を進めており、2009年1月から本格調査が開始することになっていました。しかし残念ながら、現在は調査対象者の登録方法など計画の再検討を迫られています。

 全米子ども調査は、当初の計画では、人々の生活と環境に関わる全ての要因と胎児・子どもの成長・健康・安全との関連性を明らかにしようとするものでした。これらの仮説には、子どもの健康・発達に対する家族の影響、地域コミュニティの影響、メディア(テレビ、インターネット、ゲームなど)の影響も含まれています。環境汚染物質の健康影響だけではなく、遺伝要因、社会経済要因、ライフスタイルなど、幅広く調査するもので、エコチル調査の設計に大きな影響を与えました。

 欧州では1999年の「第3回環境と健康に関する大臣会合」において、欧州における小児の健康保護に関する環境政策の方針が定められました。2004年に開催された第4回大臣会合では、欧州の小児環境・健康アクションプランが採択され、関係各国が2007年までに自国の小児環境・健康アクションプランを策定することになりました。このような検討を踏まえて、デンマークやノルウェーでは国家プロジェクトとして、子どもの健康に関する疫学研究が実施されています。

 子どもの健康に影響を与えると疑われている環境汚染物質は多数ありますが、環境中の濃度は比較的低いものが大部分と考えられるため、健康影響を疫学研究で解明するには、大規模な調査が必要です。子どもの成長発達に及ぼす影響を評価するためには、実験研究による知見では限界があり、疫学研究によって成長発達に関する指標について、長期間、繰り返して調べることが必要です。

日本では

 子どもの環境保健に関する今後の取組について、「小児の環境保健に関する懇談会」において、子どもの脆弱性、環境保健に関する課題を中心に議論が進められ、今後推進すべき施策の方向性について提言が取りまとめられました(「小児の環境保健に関する懇談会報告書」(2006年8月))。その中で、環境要因(化学物質の曝露、生活環境等)が子どもの成長・発達に与える影響を明らかにするために、「小児を取り巻く環境と健康との関連性に関する疫学調査」の推進を図るように提言されました。

 2008年3月には、環境中の化学物質の影響を検出できる大規模な新規出生コホート調査の立ち上げが提言されると(「小児環境保健疫学調査に関する検討会報告書」)、2008年4月に「小児環境保健疫学調査に関するワーキンググループ」が設置され、新たな疫学調査の基本設計について検討が進められました。その結果、2011年から疫学調査が開始されることになり、「子どもの健康と環境に関する全国調査」と名付けられ、「エコチル調査」という愛称で呼ばれています。

国立環境研究所では

 国立環境研究所は、エコチル調査全体を統括する役割を担うことになりました。2010年4月に、そのためにコアセンターを設置しました。また、国立成育医療研究センターに、臨床医学面からコアセンターを支援するメディカルサポートセンターが設置されました。全国各地で調査を担当する大学等の15の研究機関を公募により決定し、各地域のリクルートおよび追跡調査を担当するこれらの研究機関をユニットセンターと呼んでいます。

 調査対象者から採取された血液・尿などの生体試料は、検査会社が全国の協力医療機関から回収し、生化学検査を実施します。また、いくつかの保存容器に分注し、化学物質等測定用試料と長期保存用に分けて、それぞれ異なる施設で保管されています。国立環境研究所では環境試料タイムカプセル棟の一部に液化窒素タンクを置いて、長期の保存をしています(図6・左上)。これらの生体試料中の化学物質等の測定は、リクルート期間終了後に、順次実施される予定です。

 調査対象者のID発行、同意書及び個人情報の登録、生体試料の検査結果の管理、同意書・質問票・診察記録票等の入力・管理、調査進行状況の管理、謝礼の管理等を行うためのデータ管理システムを構築して、収集されたデータはデータセンターで一元的に管理されています。コアセンター及び各ユニットセンターでは生体認証によってログインができる専用端末からデータセンターにあるサーバーにアクセスすることにより、個人情報の管理をしっかりと行いながら、日常のデータ管理を行っています(図6・左下)。

4点の写真 詳細は以下のキャプションに記載
図6
左上:生体試料の保管
左下:データ管理システムの操作端末
右上:全国のユニットセンターとの定例Web 会議風景
右下:エコチル調査コアセンターのメンバー

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