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2011年7月31日

衛星からの温室効果ガスの観測

研究をめぐって

 温室効果ガスの衛星観測データ処理手法の研究と、そのデータを利用したCO2の吸収・排出量の推定研究は、世界最先端の研究の1つです。ここでは、研究の動向や国内外の研究者・技術者グループとの連携(協力と競争)、そしてGOSATプロジェクトの推進体制を簡単に紹介します。

世界では

 宇宙から温室効果ガス濃度の全球分布を測定したいという機運が高まったのは、1990年代後半から2000年にかけてです。1997年12月に締結された京都議定書で先進諸国の温室効果ガスの削減目標が定められたことを受け、世界の先進諸国が客観的なデータを取得するために温室効果ガスの全球分布を衛星から測りたいと考えました。欧州ではフランスの研究所を中心にして、CARBOSAT計画が2001年に欧州宇宙連合(ESA)に提案されましたが、内部の研究者グループによる綿密な検討の結果、科学的に十分な精度での測定は不可能との判断に至り、2003年5月に提案を取り下げました。米国では2001年頃に二酸化炭素観測衛星(OCO)計画が米国航空宇宙局(NASA)に提案されました。日本ではGOSATの計画が2002年に検討され、2003年から立ち上がったのです。日本が踏み切ったことを受けてか、米国ではOCO計画の優先度が上がり、衛星の開発計画が実現しました。その後は、2008年の打ち上げを目指して日米の競争が始まりました。宇宙機関どうしでは、どちらが先に打ち上げられるかという意識もあったようです。二転三転して、最終的に「いぶき」は2009年1月に、OCOは2009年2月に打ち上げられましたが、残念ながらOCOの打ち上げは失敗に終わり、日米両衛星での同時期の観測は実現しませんでした。

 世界の研究者グループでは「宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(International Workshop on Greenhouse Gas Measurements from Space:IWGGMS)」を年に1回開催し、国際的な研究者や技術者の間での情報交換が始まりました。第1回は2004年に東京で、その後、米国2005年、日本2006年、フランス2007年、米国2008年、日本2010年、英国2011年と開催され、参加発表を行う研究者は100名を越えています。

 温室効果ガス観測の衛星開発という点で日米から一歩遅れた欧州は、Envisat衛星搭載のSCIAMACHYセンサからCO2やメタンの濃度分布の導出を試み成果を出しました。フランスを中心としたCARBOSATの計画は小型のMicroCarbに引き継がれ、新たな提案がなされています。また、ドイツを中心として、複数の衛星によるCarbonSat計画も進められています。いずれも2018年頃以降の打上を目指しています。

 米国では、2013年2月までの打ち上げを目指して、OCO-2の開発を急いでいます。装置は完成し、本年夏にはその特性を測定するための熱真空試験を実施しています。

 さらにその先の計画として、レーザ光を用いるライダーを衛星に搭載して温室効果ガスを測ろうという研究と開発が、世界の様々な機関で進められています。

日本では

 2011年現在、「いぶき」は温室効果ガスの観測を主目的とした世界で唯一の衛星です。2009年6月から観測データをとり続けています。目標とする観測運用期間は5年ですから、少なくとも2014年までは観測データをとり続けるでしょう。これは、世界の研究者にとって貴重なデータです。プロジェクトを推進する環境省、国立環境研究所、宇宙航空研究開発機構では、これまで3回にわたって世界に向けて研究公募を行い、100件以上の提案課題を採択しました。その目的は、このGOSATの貴重な観測データを世界の研究者に利用してもらい、校正・検証・手法改良の研究成果を通じてデータ質をより高め、より多くの科学研究利用の成果を得るためです。その課題代表者会議を2009年・東京、2010年・京都、2011年・英国エディンバラで開催しました。

 また、地域別のCO2吸収・排出量を推定するための大気輸送モデルの開発も、国立環境研究所だけでなく、気象庁、気象研究所、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東北大学、東京大学・大気海洋研究所(AORI)、産業技術総合研究所など、日本の各機関で進められています。GOSATプロジェクトでは、これらに関与する専門家の方々のご意見やご助言を受けてプロジェクトを進めています。

国立環境研究所では

 地球環境研究センターにおいて、研究と事業推進の二本柱でGOSATプロジェクトを進めています。2004年4月にGOSATチームはヴァーチャルチームとして発足しました。そこでは、地球環境研究総合推進費B-02課題を中心に、GOSATプロジェクトのための準備研究を進めました。GOSATチームは2006年度から正規の研究室となり、9月には地球環境研究センターに国環研GOSATプロジェクトオフィスが設置されました。プロジェクトオフィスの主要なミッションは、GOSATデータの定常処理運用システムの開発と運用ですが、さらに2007年度から検証チームが加わり、2008年度からはGOSATプロジェクトのWebサイトを開設・運用し、情報発信を行っています。2009年1月のGOSATの打ち上げ成功とその後のデータプロダクト公開などを経て、2011年度からは、地球環境研究センターの衛星観測研究室、物質循環モデリング・解析研究室、国環研GOSATプロジェクトオフィスにおいて、観測データの定常処理運用、アルゴリズム開発・改訂、検証、モデル利用研究などを進めています。

 なお、国環研GOSATプロジェクトに携わる研究者・技術者は、それぞれの分野で国内外の研究者・技術者コミュニティとの連携を図りながら研究と事業を進めています。例えば、データ処理手法の研究分野では、放射伝達の計算比較の国際グループを共同で推進し、大気輸送モデルの研究分野では、世界のTranscom3グループの一員としてデータサーバの管理や情報の交換を行っています。

 今後もGOSATのデータや研究成果を世界に発信していきたいと、関係者一同プロジェクトに取り組んでいます。

会議写真
第3回 GOSAT研究公募代表者会議(2011年5月19日から20日 英国エディンバラ)

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